地域医療実習

対象 コアローテーション

「地域を診る医師を、地域が育てる」

金沢大学総合診療共創センターでは、地域に根ざした医療を実践的に学ぶため、北陸4県(新潟・富山・石川・福井)に広がる25の実習施設(2025年10月現在)と連携し、学生全員が地域の現場で学ぶ地域医療実習を実施しています。
本実習は、総合診療①(4週間)と総合診療②(2週間)に分けられ、コアローテーションの1年間において、すべての学生が2つの異なる地域で計6週間の実習を行います。一人ひとりが異なる地域で医療を体験することで、地域特性や住民の生活背景の違いを学び、幅広い視点で医療を捉える力を育みます。

[プログラムの特徴]

1 生活に寄り添う医療を体験

地域では、治療だけでなく生活支援・退院調整・在宅医療・看取りといった、「その人らしい暮らしを支える医療」が日常的に行われています。学生は診療所やコミュニティホスピタルでの診療に参加し、生活の場と医療のつながりを実感します。

2 地域医療の仲間と学ぶ

地域医療の現場では、医師だけでなく、看護師・リハビリ職・薬剤師・管理栄養士・ソーシャルワーカーなど、多様な専門職がチームとして支援に関わっています。学生はこれらの医療者から直接学び、多職種連携の実際とチーム医療の魅力を体感します。

3 学びの深化と振り返り

実習を終えた学生は、自身の経験や関心をテーマに課題レポートを作成。担当教員がその内容を読み取り、学習課題を抽出します。さらに最終日にはスモールグループディスカッションを開催し、「地域で経験したこと」「学びたいと思ったこと」「大学病院での実習との違い」などを共有します。この振り返りが、次の学びへの道しるべとなります。

[学生の声]

今回の地域医療実習で印象に残ったのは、身体機能が回復しても、「退院=元の生活に戻れる」とは限らないという現実でした。
実習中に担当した患者さんは、仮設住宅で独居生活を送る高齢の方でした。治療とリハビリによって麻痺は改善していきましたが、退院後の生活について話をすると、「家に帰っても一人だし、することもない」という言葉が返ってきました。この一言から、病気そのものよりも、孤立した生活環境が患者さんの意欲に大きく影響していることを実感しました。
被災前は地域の中で人とのつながりを持ち、活動的に過ごしていたにもかかわらず、住環境の変化によって交流が途絶え、そこに脳梗塞を発症したことで、生活の再構築がより難しくなっていました。医療者として身体機能の改善を喜ぶ一方で、「この方はどこで、どのように暮らしていくのか」という問いに、簡単な答えがないことに戸惑いました。
退院に向けては、訪問診療や訪問看護、訪問介護といった在宅サービスの活用が検討されましたが、認知機能の低下もあり、独居生活の継続には不安が残りました。ここで初めて、医療の判断が、地域の資源やサービス供給の状況に強く制約されることを実感しました。
特に輪島市では、震災後に訪問サービスの需要が急増しており、「必要だと分かっていても、必ずしも提供できるとは限らない」という現実があります。訪問診療は患者さんにとって大きな支えになりますが、移動時間や人手の問題から、持続可能性という視点も避けて通れない課題だと感じました。
また、実習時間以外にも輪島市内を歩いたり、地域で食事をしたりする中で、医療現場だけでは見えない地域の日常に触れることができました。七尾で他の実習班の学生と集まり、観光をしながら実習の経験を振り返った時間は、自分が感じた戸惑いや気づきを言葉にするきっかけにもなりました。地域医療は診察室の中だけで完結するものではなく、こうした日常の延長線上にあるのだと実感しています。
今回の実習を通して、地域医療では診断や治療だけでなく、患者さんの孤立にどう向き合い、どのような形で生活を支えるのかを考え続けることが医師の重要な役割であると学びました。明確な正解がない中で、患者さんの言葉に耳を傾け、その地域を特色を知り、多職種と連携しながら最善を模索する姿勢を、今後の学びにも活かしていきたいです。

根塚 将希 さん(2024年度コア・ローテーション 市立輪島病院にて実習)

地域医療実習を通して、「医療のゴールは診断や治療することだけではない、どう生きていくかを手助けすること」だと知りました。
私は、4週間の実習期間である一人の患者さんを担当することとなりました。患者さんは高齢で複数の慢性疾患を抱えている方で、今回の入院の理由は食欲低下や強い倦怠感、気分の落ち込みが続いていることでした。精査の結果、明らかな器質的疾患は見つかりませんでしたが、この方の背景に震災後の生活環境の変化や、度重なる入院・転居による精神的負担があると知り、それらが影響しているのではないかと考えました。
実習期間中、実際に担当患者さんが生活されている仮設住宅を訪問させていただくと、そこで病院で話を聞いているだけでは想像しきれなかった、住環境の狭さや立地への不安を目の当たりにし、それらが日常的なストレスになっていることを実感しました。「生活の場を見ることが、診療の一部になる」という感覚は、この実習で初めて得たものでした。
その後、治療やリハビリによって身体状態や食事量は改善しましたが、その後の生活の選択をめぐっては簡単な答えがありませんでした。施設入所が良いのか、自宅に戻るのか、家族の思いと本人の希望が揺れ動く中で、医学的に“正しい”選択と、本人が納得できる選択が必ずしも一致しないことを学びました。
また、老人性うつと診断されること自体が、患者さんにとっては受け入れにくい場合があることも印象的でした。ご本人の「本当に体に異常はないのか」という不安にどう向き合うか、医師がどのような言葉で説明するかによって、患者さんの反応や治療への姿勢が変わる場面を目の当たりにしました。

私は4週間穴水に滞在する中で、その土地の天候や自然環境を知りました。
地元のお寺やお魚屋さんに行って文化や食べ物を知りました。
訪問診療を見学したことで、住居や交通環境を知りました。
患者さんとお話することで、生まれや育ちを知りました。
その土地で生活されている方とお話をすることで、人生に対する考え方を知りました。
そして、それらが重なり合って患者さんの人生が構築されていて、みなさんがその町の中で病気と向き合っていることを改めて知ることが出来ました。
今回の実習を通して、地域医療では病気を治すこと以上に、「その人がどこで、誰と、どう生きていくか」を一緒に考え続ける姿勢が求められると感じました。患者さん自身が明確な正解がないからこそ、様々な職業の方やご家族・ご本人と話し合いながら、患者さんの選択を支える役割が医師にはあるのだと思います。

本田 香穂さん (2024年度コア・ローテーション 公立穴水総合病院にて実習)